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こども性暴力防止法で抱っこはいけないのか|国は萎縮しないでと書いています

11 時間前
読了時間: 13分

まずは解説動画をご覧ください(約18分)


▲ セミナーでいただいたご質問にお答えします。抱っこはいけないことなのか。


先日のセミナーで、ある先生からこんなご質問をいただきました。


こども性暴力防止法の観点からすると、抱っこをすることはいけないことなんですか。

このご質問を聞いたとき、私は「これは早くお伝えしないといけない」と思いました。そして同時に、こうも思ったんです。

真面目な先生ほど、こう考えてしまうだろうな。

子どものためにきちんとした保育をしたい。だから少しでも危ないことは避けたい。その気持ちが、こういうご質問になるんですよね。

けれども、もしこの理解が広まってしまったら、保育の現場でいちばん大事なものが失われてしまうかもしれません。

先に結論を申し上げます。


抱っこはいけないことではありません。 


国のガイドラインにも、実はそう書かれています。

むしろ乳児期の抱っこは、保育所保育指針自身が求めている保育の中心にあるものです。

この記事では3つのことをお話しします。なぜ抱っこが大事なのか。抱き癖という言葉はどこから来たのか。そして、こども性暴力防止法には実際に何と書いてあるのか。




いま、現場で起きていること

この法律の話をしていると、こういう声を聞くことがあります。

「抱っこしすぎたらいけないの」

これは実際に園でお聞きした言葉です。

「抱っこするときは、子どもに同意を取らないといけないらしい」

0歳、1歳のお子さんに、どうやって同意を取るんだろうと思いますよね。

「疑われたら怖いから、抱っこは控えておこう」

お気持ちは痛いほど分かります。新しい法律ができて、罰則があると聞いて、そのうえで「不適切な行為」という言葉が出てくる。そうするとどうしても身構えますよね。触らぬ神に祟りなし、ではないですけれども、まさにその心理になってきます。

でも、ここで立ち止まっていただきたいんです。

もし園全体の先生が抱っこを控えたら、どうなるでしょうか。

0歳児クラスで泣いている赤ちゃんがいる。いつもならサッと抱きかかえて背中をトントンする先生が、一瞬ためらう。これ、大丈夫かな。

その一瞬が、子どもに伝わります。

今日はその一瞬をなくすためのお話です。




保育所保育指針は何と言っているか

そもそも保育所の保育の指針となっている保育所保育指針。ここには抱っこについて何と書いてあるのでしょうか。

乳児保育のいちばん最初、基本的事項の原文です。


乳児期の発達については、視覚、聴覚などの感覚や、座る、はう、歩くなどの運動機能が著しく発達し、特定の大人との応答的な関わりを通じて、情緒的な絆が形成されるといった特徴がある。これらの発達の特徴を踏まえて、乳児保育は、愛情豊かに、応答的に行われることが特に必要である。

ここで用語をひとつ解説させてください。応答的な関わりという言葉です。

これは、子どもが出したものに大人が答えることを言います。

赤ちゃんが泣く。それに気づいて抱き上げる。声をかける。「どうしたの」「大丈夫」「泣きたいんだね」。

子どもが投げたボールを、大人が受け取って投げ返す。このやり取りのことを応答的と言うんですね。

キャッチボールを思い浮かべていただくと分かりやすいと思います。赤ちゃんはまだ言葉を持っていません。だから、泣く、笑う、手を伸ばす、という形でボールを投げてきます。

そのボールを大人が受け取る。受け取ってもらえたという経験が積み重なって、「この人は自分に応えてくれる人なんだな」という信頼につながっていきます。

保育所保育指針の解説には、こう書かれています。


日々の温かく丁寧な触れ合いを重ねる中で、子どもは身近な保育士等に親しみをもち、より気持ちを通わせ、関わりを深めることを求めるようになる。

触れ合いと、はっきり書かれていますね。

つまり抱っこは、避けるべきものではありません。指針が求めている保育そのものなんです。




「抱き癖」という言葉はどこから来たのか

ここで、抱き癖という言葉について少しお話しさせてください。皆様も一度は聞いたことがあるかもしれません。

「抱き癖がつくから、あまり抱っこしないほうがいい」という言葉です。

この言葉がどこから来たか、ご存じでしょうか。年表にしてみました。


出来事

1931年(昭和6年)

『婦人公論大學(育児編)』という育児書に、抱き癖はつけないことという記述が出てくる

1966年(昭和41年)

アメリカのスポック博士の育児書の日本語版が出版される

昭和30年代〜40年代

「抱き癖は良くない」という考え方が日本中に広がる


1931年の記述が、日本で確認できる古い記録のひとつです。

そして決定的だったのが1966年、昭和41年。スポック博士の育児書の日本語版に、しょっちゅう抱かれていると抱き癖がつく、という趣旨の表現がありました。そしてこの本が爆発的に売れたんですね。

皆様の中にも、ご自分のお母様やお姉様、あるいはお姑様から「抱き癖がつくよ」と言われた経験のある方がいらっしゃるかもしれません。当時はそれが常識だったんです。

ただ、いま分かっていることがあります。

この抱き癖という言葉には、医学的な根拠がありません。医学用語でもありません。

そして英語の原文を確認すると、日本語版にあるような抱き癖という概念が見当たらない、という指摘もあります。翻訳の過程で生まれた言葉ではないかということですね。




うつぶせ寝と同じ道をたどっています

同じ時代に広まったもので、今は否定されているものが、もうひとつあります。

うつぶせ寝です。

頭の形が良くなる、よく眠る、と言われて昭和の時代に大流行しました。でも今は、乳幼児突然死症候群のリスクがあるとして、1歳未満では避けるようにと言われています。

昭和の常識が、今の常識ではなくなった。

抱き癖も、同じ道をたどっている言葉なんですね。




抱っこすると自立が遅れるのでしょうか

では、抱っこすると自立が遅れるというのは本当なのでしょうか。

これも保育所保育指針の解説に答えが書かれています。


前期に芽生えた特定の大人との愛着関係がさらに強まり、この絆をよりどころとして、徐々に周囲の大人に働きかけていく。

この絆をよりどころとして。 ここがポイントです。

愛着があるから、外に出ていけるんです。逆なんですね。

たとえ話をさせてください。

皆様の園に、お散歩に行く公園がありますよね。1歳児クラスの子を連れて行ったとき、どんな様子でしょうか。

最初は先生の足元から離れません。でも、しばらくするとちょっと離れて、砂場のほうへ行ってみる。そしてふと振り返って、先生がそこにいるのを確認して、また遊びに戻る。少し慣れてきたら、もう少し遠くまで行く。

あの、振り返って確認する場所。あれが愛着です。

心理学では安全基地という言い方をします。帰って来られる場所があるから、遠くまで探検できるんです。

港があるから、船は沖に出られる。抱っこは、その港を作る作業なんですね。

港を作らずに「さあ、早く沖に出なさい」と言っても、船は出ていけません。不安なまま、岸辺をうろうろすることになります。

ですから、抱っこすると自立が遅れる、ではありません。抱っこするから自立できる。 これが今の理解です。




ここからが本題です|法律は何と書いているか

では、こども性暴力防止法は抱っこについて、実際に何と書いているのでしょうか。

まず用語をひとつ整理しておきます。不適切な行為という言葉です。

これは、性暴力そのものではないけれども、業務上どうしても必要とまでは言えず、それが続いたり広がったりすると性暴力につながりかねない行為のこと。国のQ&Aにそう定義されています。

こども家庭庁のガイドライン、不適切な行為の具体例のところには、こう書かれています。


業務上必要でないのに児童等を膝に乗せる、おんぶする など

ここだけを読むとドキッとしますよね。膝に乗せる。おんぶ。保育では毎日のようにあることです。

ところが、この直後に注意書きがあるんです。


※ 未就学児に対する膝に乗せる、おんぶするといった行為は、業務として行い得るものであることに留意。

わざわざ、注意書きが書かれているんですね。

国も分かっているんです。この例をそのまま読まれたら保育の現場が困ると。だから、未就学児については業務として行ってよいと、書き足してくれています。




一律に不適切と判断されるものではない

ガイドラインには、こういう一文もあります。


これらの具体例は、対象事業者、事業内容、対象となる児童等の発達段階や特性、現場の状況等によって、不適切であるか否かが変わり得るものであり、これらの行為に該当することで一律に不適切であると判断されるものではない

さらに、こうも書かれています。


児童等の発達段階に応じて、現場で必要となる「身体接触を伴う行為」の範囲は異なるものであり

0歳児のそれと、高校生のそれ。同じものさしでは測れないと、国がそう言っているんですね。




では、何が問題なのか

ここをはっきりさせておきましょう。ガイドラインの具体例を、もう一度ていねいに読んでいきます。4つありました。


具体例

ついている条件

必要以上に長時間抱きしめる

必要以上に長時間

一般的ではない抱き方になっている

一般的ではない

業務上必要でないのに膝に乗せる、おんぶする

業務上必要でないのに

寝かしつけの際に特定の児童等とだけ添い寝をする

特定の児童等とだけ


お気づきでしょうか。

全部に条件がついているんです。

ここはじっくり見ていただきたいところです。抱っこという行為そのものを禁止した記述は、ひとつもありません。

問題にされているのは、やり方のほうなんです。

必要を超えていないか。一般的な抱き方か。業務上の必要があるか。特定の子だけになっていないか。

ここがいちばん大事なところです。泣いている赤ちゃんを抱き上げる。これは業務上必要な行為です。指針が求めている応答的な関わりそのものです。

不適切とされるのは、その必要性が説明できないときなんです。

逆に言えば、なぜこの子を抱っこしたのかを説明できる保育をしていれば、何も怖くありません。皆様が毎日やっていることは、説明できることばかりのはずです。




国は「萎縮しないように」と書いています

もうひとつ、お伝えしておきたいことがあります。

国のガイドラインには、こういう一文が2か所に出てきます。


対象業務従事者が過度に萎縮することがないよう留意しつつ

萎縮しないようにと、国がわざわざ書いているんですね。

就業規則の参考例のところにも、同じ趣旨の注記があります。従事者が過度に萎縮することがないよう留意しつつ、各事業者の実態に応じて明確化すること、と。

つまり「抱っこは怖いから控えよう」という状態は、国が望んでいる姿ではありません。むしろ避けてほしいと書かれている状態なんです。




では、園としてどうすればいいのか

3つ挙げます。


ひとつ目、園として線を引くこと。

うちの園では、抱っこはこういう場面で、こういうやり方でします。これをみんなで決めるんです。


ふたつ目、決めた線を全員で共有すること。

一人で判断しない。園として決めたところだから、堂々とやれるんです。


みっつ目、迷ったら一人で抱えずに相談すること。

「これ、どう思う」と聞ける関係を作っておく。

線を引くのは、禁止を増やすためではありません。自信を持って保育していただくためです。

線がないから怖いんです。線があれば、その線までは堂々とやれます。




今日のまとめ

ひとつ、保育所保育指針は、乳児期の応答的な関わりと、温かく丁寧な触れ合いを求めています。抱っこは避けるべきものではなく、保育そのものです。

ふたつ、抱き癖という言葉に医学的な根拠はありません。昭和の時代に広まった考え方で、うつぶせ寝と同じように、今は見直されています。

みっつ、愛着は自立を妨げません。むしろ帰って来られる港があるから、子どもは外に出ていきます。

よっつ、こども性暴力防止法のガイドラインには、未就学児への抱っこやおんぶを業務として行い得ると明記されています。問題にされているのは、必要性を欠くやり方のほうです。

いつつ、国は過度に萎縮しないようにと、繰り返し書いています。




最後に

この法律は、子どもを守るための法律です。子どもが安心して過ごせる園を作るためのものです。

不安に思われている先生もいらっしゃると思います。新しい法律ですし、罰則という言葉も出てきますからね。

でも、その法律を理由にして、泣いている赤ちゃんを抱き上げるのをためらう。それは法律の趣旨とは逆の方向なんです。

抱っこしてください。堂々としてください。そのために、園として線を引きましょう。




線を引く機会は、実は用意されています

収録を終えたあとに、もうひとつお伝えしたいことを思いつきました。

こども性暴力防止法における「こども」の扱いは、0歳から18歳までということで幅が広いです。

そしてこれは、こども家庭庁で行われている会議をすべて見ていけば分かるのですが、国は「萎縮しないように」「萎縮しないように」というところを、会議の中で何度も繰り返し伝えています。

ただ、それがやはりまだ伝わっていなくて、こういう誤解を招いてしまっている。これは現場で今、起こり得ている事実ではあります。

ガイドラインも、見ていくとものすごく長いんですね。ですから誤解があると「抱っこしちゃいけないんだ」となってしまいます。そうではありません。

そのためにも、従事者研修の中で、それを話し合う機会が実はあるんです。

どこで線を引くのか。それこそ園内研修でしっかりやるようにというのが、従事者研修の中の園内研修のワークの中にあります。

ですから、園内でどういう抱っこをしてマル、これはバツ、これは条件付きでマル、というところを決めて、園内でルールを作って、保護者にきちんとお伝えすれば、本当に大丈夫なんです。

そのことを知っていただきたくて、今回の撮影をさせていただきました。




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