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保育所保育指針の歴史と今【第7回】平成29年、なぜ大きく変わったのか

2 時間前
読了時間: 13分

まずは解説動画をご覧ください(約26分)


▲ 保育所保育指針の歴史と今 第7回。いよいよ現行の指針に入ります。


前回は平成20年の改定を見ました。指針が基準になったというお話でしたね。大きな分岐点でした。

今日からいよいよ、私たちが今まさに使っている保育所保育指針、平成29年に告示された現行の指針の話に入っていきます。

平成20年から約10年ぶりの大きな改定です。

今日はその第1回として、そもそもなぜこれほど大きく変わったのか。その背景と全体像を見ていきます。




なぜ大改定だったのか|3つの変化

背景には、大きく3つの変化がありました。しかも、数字ではっきり見えるんです。

ひとつ目、平成27年に子ども・子育て支援新制度がスタートしました。

量と質の両面から、子どもの育ちと子育てを社会全体で支えようという大きな制度です。

ふたつ目、0歳から2歳の小さな子どもの保育利用が、ぐっと増えていきました。

みっつ目、子育て世帯の負担や孤立感が高まりました。

数字で見ると、こうなります。



平成20年

平成27年

1・2歳児の利用率

27.6%

38.1%

児童虐待の相談件数

約4万3,000件

約10万3,000件


1・2歳児の利用率は、わずか数年で10ポイント以上も増えています。

児童虐待の相談件数のほうは、およそ2.4倍です。

※ 利用率・虐待相談件数は厚生労働省の統計(保育所等利用児童数/福祉行政報告例 等)によります。

この3つの変化が重なって、大改定につながっていったんですね。




改定はどう決まったのか|少しだけ舞台裏を

では、この改定はどういう流れで決まっていったのでしょうか。少しだけ舞台裏を覗いてみましょう。

改定の検討では、保育専門委員会という専門家の集まりが行われました。委員長は、保育の世界ではとても有名な汐見稔幸先生です。

この委員会で議論が重ねられ、平成28年の12月に議論の取りまとめが公表されます。


時期

出来事

平成27年12月〜平成28年12月

保育専門委員会で全10回の議論

平成28年12月21日

議論の取りまとめを公表

平成29年3月31日

大臣告示

平成30年4月1日

適用開始


告示から適用まで、1年空いていますね。

保育所保育指針は、告示されてすぐ使うのではなく、1年ほどの周知期間を置くのが普通です。現場が新しい指針を学び、準備するための時間ですね。

この「1年の周知期間」という仕組みは、次の改定を考えるうえでも大事になってきます。




改定の柱は6つ

平成29年の改定では、たくさんのことが変わりました。全体像として、大きく6つの柱があります。


 ①乳児・1歳以上3歳未満児の記載の充実。

 ②幼児教育の積極的な位置づけ。

 ③健康と安全の記載の見直し。

 ④保護者支援から地域の子育て支援へ。

 ⑤職員の資質・専門性の向上。

 ⑥災害への備え。これが新設されました。


今日はこのうち、とくに大きな2つを掘り下げます。乳児保育の充実と、幼児教育の位置づけです。残りは次回以降で詳しく扱います。




柱の1つ目|乳児保育の充実

先ほど、0歳から2歳の利用が増えたという数字を見ましたね。

小さなお子さんが保育所で過ごす時間が、どんどん長くなっている。だからこそ、この時期の保育を手厚くしていこうとなったわけです。

0歳から2歳って、人生でいちばん心と体の土台が作られる時期なんですね。

特定の大人にたっぷり関わってもらうことで、心が安定していく。この時期の関わりが、その子の一生に影響するとも言われます。

例えるなら、家を建てるときのいちばん大事な基礎工事の部分です。だからこそ、ここにぐっと力を入れて書かれることになりました。

この充実で登場するのが、乳児の3つの視点や、1歳以上への5領域の適用です。具体的な中身は次回、第8回で詳しく見ていきます。

今日は「0・1・2歳児がすごく大事にされた」という全体像だけ、掴んでいただければと思います。




柱の2つ目|保育所が幼児教育の施設になった

そして2つ目。これが平成29年改定の、いちばん象徴的な変化かもしれません。

保育所が、幼児教育を行う施設としてはっきり位置づけられました。

それまで保育所は、子どもを預かり養護する場所というイメージが、まだ強く残っていました。

でもこの改定で、保育所も幼稚園や認定こども園と同じように、幼児教育を担う施設なんだと明確にされたんですね。

しかも、ただ言葉にしただけではありません。

保育所、幼稚園、認定こども園。この3つの施設で、3歳以上の子どもの教育の中身を共通のものに揃えました。

どの施設に通っても、同じように育ちを支えてもらえる。そういう形を目指したんですね。

そして3つの要領・指針が、足並みを揃えて同時に改定されました。

これは第4回、第5回で見た「幼稚園に歩調を合わせる」という流れが、ここでひとつの到達点を迎えたとも言えます。




今日のまとめ

平成29年、約10年ぶりの大改定。

背景には、新制度のスタート、0・1・2歳児の利用増、そして子育ての孤立化や虐待の増加がありました。

保育専門委員会で検討がされ、平成29年3月に告示、平成30年4月から適用となりました。

改定の柱は6つ。とくに大きいのが、乳児保育の充実と幼児教育の位置づけです。保育所が幼児教育を行う施設になり、3つの施設で3歳以上の教育を揃えました。

一言で言うなら、平成29年の改定は、乳児保育と幼児教育、この2つを両輪にした大改定でした。

いちばん小さな0歳の育ちから、就学前の学びまで。子どもの育ちの全体を、改めて見つめ直した。それが今、私たちが手にしているこの保育所保育指針なんですね。

でもこれは、まだ「なぜ変わったか」という背景のお話です。次回は本文の中に入っていきます。




ここからは、私の危機感の話をさせてください

ここからは、収録を終えたあとに考えていたことを書き添えます。少し長くなります。

来年、保育所保育指針は改定の予定です。改定された後に周知期間があって、おそらく2027年の4月に周知されて、2028年から施行という形になります。

せっかくこれだけ、今こども家庭庁が検討会議をYouTubeにあげたり、会議録も表に出していただいておりますので、いち早く変更点を理解していただくための発信を、キャリアアップ研修を運営する私たちとしてはやっていきたいと思っております。

なぜかというと、今の現状はもっと低いところにあると私は認識しているからです。

キャリアアップ研修を行うと、すべてがすべてというわけではありませんけれども、「久しぶりに保育所保育指針を見た」という方がいらっしゃいます。それこそ、入園する前、学校では一度見たことがあるけれど、現場に入ってから一度も見ていない。あるいは、そもそも保育所保育指針を持っていない。そういう方も少なくないんですね。

ということは、国の最低基準である保育所保育指針の理解すら、まだ追いついていないというところがあるのではないかと思います。

もちろん、進んでいる園も多くいらっしゃると認識しています。ただ、こういう研修を行っていて、また私自身も子育て支援として保育に入らせていただくことがありますけれども、まだまだ指針を基準とした保育の話し合いというところまでは行き着いていないのが現状ではないかと思います。

ですから、そもそもの土台のところですね。指針が最低基準であること。そしてその指針の中でも、遵守事項、努力事項、裁量事項という違いがあること。その遵守事項すら理解に届いていないのであれば、まずここがしっかり分かった上で改定した内容を話していかないと、「ああ、変わったんだ」で終わってしまって、何も理解ができないということになってしまいます。

指針は何のためにあって、保育は何の目的のためにあって、そして何をしなければならないのか。ここからしっかり考えていくことが、最終的に指針を理解することにつながるのかなと思います。

10年に一度の改定ということで、10年前もここの周知に汗をかかれた研修機関の方がいらっしゃいました。私たちはまだ5年目の駆け出しの研修団体ですけれども、今のこの時代、これだけオープンに情報が出ていて、テレビに出なくても個人で発信できるのであれば、いち早く情報を集めて整理してお伝えしたい。

10年前の今ごろ、こうやって指針を告示して「じゃあやってみましょう」と言って、10年経った今が先ほどお話しした現状だと認識していますので、であれば。


やり方を変えないと、また同じ10年になりますよ。

それが私の中の危機感なんですね。




不適切保育の話も、根っこは同じです

別のところでもお話ししていますが、保育所の中で虐待事案があったり、不適切保育と言われるものがあったり。こういったところの根底にあるのは、そもそも適切な保育が何かというところが抜けていることだと思います。

不適切保育と言われると、あれも不適切、これも不適切、あ、これも不適切かも。じゃあもう保育できないんじゃないか。そういうふうに、やっぱり怖くなってしまう。

適切な保育が理解できていれば、そこから外れるものが不適切な保育だということになります。これはラジオでも、浅倉先生やゴンさんがお話しされているところです。中心が抜け落ちているからこそ、点の知識でしかなくなってしまうんですね。

「こんなことをやるのは不適切なんだ。へえ」「こういうこともやるのは不適切なんだ。へえ」

点だから、分からないんですよ。

ですから、まず軸を持って、適切なところは何かということを理解した上で、不適切かどうかを見分けていく。それが元々の筋道だと思うんです。

では、その適切な保育ってどこにあるのか。

それはもう、1965年から出ている保育所保育指針なんですよ。

全国の保育所での保育はこういうふうにやってくださいと示されていて、平成20年からは告示化されている。つまりこれは基準ですよ、ということです。

参考にしてくださいね、理想の保育ですよ、じゃないんです。こうしてくださいという、法律として結びつけられているところになりますので、やらなければいけないんです。

ただ、平成20年の改定からもう18年経っていますけれども、先ほど言った現状なんですよ。これを変えていかないと、不適切保育の話もずっと続いてしまう。そしていつかどこかで、大きな問題が起きてしまうのではないかと、私はすごく危惧しています。




人間関係のトラブルも、実は同じ根っこです

もうひとつ。保育所で退職者が多く出たり、辞めてしまう原因のひとつに、人間関係のトラブルがあります。

これはどこの職場に行ってもある問題でしょう。ただ、保育所の中というのは、個人の価値観が出やすいんです。

なぜなら、生活全般を共にしているからですよね。

生活を共にするということは、食べるとか寝るとか、普通に生活するさまざまなところに、自分の当たり前になっている価値観が出やすい。しかも先生という職業ですから、教えなければいけないという立場もあります。なので、その価値観が表に出やすくなってしまう。

学校の先生や大学の教授だと、多くは一人の先生が何十人かの子どもを見ていますので、価値観がぶつかる場面はなかなか見えにくいと思います。

でも保育は、0歳だったら3人、1歳だったら6人というように、複数の保育士が同じ空間で生活を共にすることになる。そうすると、その価値観がぶつかり合うんですよね。

価値観もそうですし、保育観もそうです。この子をどういうふうに育てていくのがもっともふさわしいか。この子のためになるのか。愛をかけるってこういうことなのか。ぶつかりやすい職業なんです。

ですから、価値観で話し合ってもいつまでも平行線になってしまいます。

なので、第三者の基準をベースにしながら話し合いをする。そうすれば、ベテランだろうが若い人だろうが、得意な人・不得意な人だろうが、園長先生であれ現場の先生であれ、全員がその基準の中で話し合うという環境ができます。そこで初めて、価値観のぶつかり合いが起きづらくなるんです。

ですが、それがなかなか浸透していない。私自身は、それが2026年以降、この時代の中で保育の質を上げるために最も重要な課題だと認識しています。

保育所保育指針がしっかり土台としてあって、それは国の最低基準のレベルを求めるものですけれども、その上には、指針にも書かれているとおり、園の独自性をしっかり出して保育の質を上げていくというところがあります。

ただそれは、土台がしっかりできた上でなんですよ。

土台ができた上で、園の理念があって、その理念から降りてくる目的や目標があって、そこを共通してみんなで達成していこうというチームをしっかり作る。それがとても大事なんじゃないかと思います。

理念と保育所保育指針を、すべての組織の判断の軸にして保育をしていく。それが次の世代の保育業界の姿だと思います。




私は誰も責めたくないんです

こういう発信で保育所保育指針の歴史をお話ししているのは、歴史をしっかり理解することで、今自分たちが何をやらなければいけないのかに気づいていただいたり、「指針って理想じゃないんだな」と思っていただいたりするためです。

そして歴史を見ることによって、今ここにいる自分たちの位置が分かる。たとえばベテランの先生がこうおっしゃっているのは、その時代で一生懸命頑張ってくださったから、その中でこういう思いもあるんだな、と理解していただくためです。


私は誰も責めたくないんです。

だからこそ、ちゃんと歴史を理解していくことが大事ですし、責めても仕方がないので。次の世代に行くときに、それらを見てどうしたらこれが解決していくのかを、精一杯考えていきたいと思っています。

対決して争うんじゃなくて、こうやって解説をして、分かりやすく知識を伝えていく。そして解決策は何かというところを、一緒にみんなで模索していきたい。そのために発信させていただいています。

こんな偉そうなことを言いますけれども、私はまだこの業界に入って5年目で、まだまだです。私も勉強させていただきながら、勉強していることを皆さんに配信して、一緒に共感していただける方がいらっしゃったらなと思っております。

すべては最終的には子どものためであり、そしてその人自身のためだと思っています。

子どもの自己肯定感や主体性を育むのであれば、それを支える保護者や保育者の方が、主体的に動いたり、自己肯定感を高く持っていること。 そのためには、組織づくりであったり、指針をしっかり守るというところが、とても大事だと思っております。




次回は、現行指針の中身に入ります

次回は、現行の指針の中身のいちばん大事なところに入ります。

乳児の3つの視点。1歳以上の5領域。そして幼児期の終わりまでに育ってほしい姿、いわゆる10の姿。

現行指針を理解する上で欠かせないキーワードを、じっくり読み解いていきます。

まだ 【第1回】  からご覧になっていない方は、指針がなかった時代のお話から順にご覧いただくと、流れがつながります。




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