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幼稚園教育要領の歴史と今【番外編】次の改訂の取りまとめ案、8月版で変わったこと

11 分前
読了時間: 11分

まずは解説動画をご覧ください(約21分)


▲ 第17回の追補版です。次の改訂に向けた取りまとめ案が8月に直されました。何が変わり、何が変わっていないのかを、原文で確かめます。


※この記事は、令和8年8月に公表された「会議後修正」版 取りまとめ(案)に基づいています。答申も告示も、まだ出ていません。


「幼稚園教育要領の歴史と今」の第17回では、令和9年度の改訂に向けて進んでいる議論を扱いました。そのときは、令和8年5月29日に示された取りまとめ案をもとにお話ししました。

ところがその後、動きがありました。令和8年6月5日に、幼児教育に関する2つの会議体が合同で開かれ、そこで出た意見を受けて、8月に「会議後修正」と記された版が公表されました。


時期

動き

令和8年5月29日

取りまとめ(案)

令和8年6月5日

合同の会議

令和8年8月

「会議後修正」版


今回は、その8月版を読んで見えてきたことをお伝えする番外編です。


そもそも「取りまとめ案」とは

審議会の委員が話し合ってきた内容を、事務局が文書の形にまとめたものです。いわば下書きです。下書きですから、会議のたびに手が入ります。

園の指導計画にたとえると、主任の先生が書いた下書きを職員会議にかけ、「ここはこう書いたほうが伝わります」と意見をもらって直したもの。それが今回の8月版です。まだ清書(決定)ではありません。でも、中身はずいぶん具体的になりました。


先に結論です

第17回でお話しした中身は、取り消す必要がありません。 何かが大きく変わったわけではないからです。変わったのは、言葉の置き方と、見せ方です。




まず、変わっていないこと

ここを押さえておくと、このあとの話が落ち着いて聞けます。



8月版でもそのまま引き継がれたもの

1

遊びの深まりを中心に置く考え方

2

資質・能力の3つの柱(知識及び技能の基礎、思考力・判断力・表現力等の基礎、学びに向かう力・人間性等)。3つの名前も「基礎」という言葉も残る

3

幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(いわゆる10の姿)

4

一人ひとりの好きなこと、得意なことに目を向ける方向

5

幼稚園教育要領・保育所保育指針・幼保連携型認定こども園教育・保育要領の3つを、より一体的なものへ近づけていく大きな方向


3つの柱と10の姿の関係は、姉妹シリーズの保育所保育指針の歴史と今【第8回】でも詳しくお話ししています。

たとえるなら、建て替えではなくリフォームです。柱も基礎もそのまま。変わるのは、部屋の名前と間取りの一部くらいです。ここからお話しするのは、その「名前と間取り」の話だと思って読んでください。




変わったこと①|「見方・考え方」という看板を外す

「見方・考え方」は、平成29年の改訂で、小学校以上と幼稚園教育に共通して置かれた言葉です。幼稚園教育要領では「幼児期の教育における見方・考え方」という形で示されました。

身近な環境に自分から関わり、心が動く出来事に出会う中で、遊びや生活に必要なことを感じ取る。それをもとに考えたり、やり直したりする。そうした幼児ならではの物事の捉え方を指してきました。

8月版の原文は、こうです。


現行要領において「幼児期の教育における見方・考え方」とされている記述について、「見方・考え方」としての位置付けを変更し、乳児も対象としつつ、幼児教育が重視すべき遊びの過程として引き続き重視

2つに分けて読みます。


原文

意味

位置付けを変更

「見方・考え方」という看板を外す

引き続き重視

中身は捨てない


たとえば、園の玄関に「私たちの保育の心」と書いた額をかけていたとします。その額は外す。でも、書かれていた中身を捨てるわけではありません。日々の保育の中に溶かし込んで残す。今回の変更は、そういう形に近いと私は読みました。

では、どこに置き直すのか。原文は「幼児教育が重視すべき遊びの過程として」です。「見方・考え方」という枠ではなく、「遊びの過程」という枠に移すということです。第17回でお話しした「遊びの深まり」と、まっすぐつながる話です。


「乳児も対象としつつ」を見落とさないでください

これまでの「幼児期の教育における見方・考え方」は、名前のとおり幼児期の言葉でした。0・1・2歳児は、その外にいたことになります。それを、乳児も含む形にするということです。

3つの要領・指針を近づけるという大きな話が、こんなところにも顔を出しています。




変わったこと②|ねらい・内容を「表形式」で示す

ここが、現場での見せ方をいちばん大きく変えるところかもしれません。

8月版の原文です。


小・中・高等学校の学習指導要領と同様に、表形式で示すことが適当。その際、幼児教育においては、「知識及び技能の基礎」、「思考力、判断力、表現力等の基礎」、「学びに向かう力、人間性等」を分けて示すのではなく、一体的に示すことが適当。

表にするとは、どういうことか

今の要領や指針の「ねらい及び内容」は、文章が箇条書きでずらっと並んでいます。領域ごとに、ねらいが3つ、内容が十数項目。それを表の形に組み直すということです。

小学校以上の学習指導要領では、教科ごとに目標があり、その後に内容が柱ごとに整理して並んでいます。どの内容がどの力に当たるのかが、目で追えるようになっています。その見せ方を、幼児教育にも入れるという話です。


「小学校と同じになってしまうのでは?」への歯止め

ここで多くの方が、そう思われるはずです。原文は、そこにはっきり歯止めを書いています。「分けて示すのではなく、一体的に示す」。表にはするけれど、3つの柱ごとには分けないということです。ここが、幼児教育らしさを守ろうとしているところです。

お弁当でたとえると、小学校以上は幕の内弁当です。ご飯の仕切り、おかずの仕切りと分かれています。幼児教育は、同じ材料を使っても、仕切りのない丼ものにする。材料は同じ3つの柱でも、盛り付けでは分けません。遊びの一つの場面の中で、知ることも、考えることも、粘ることも、同時に起きているからです。


「学び」ではなく「遊び」の主体的な調整

8月版では、「学びに向かう力、人間性等」の中身も具体的になりました。


「学びに向かう力、人間性等」の中身(8月版)

初発の思考や行動を起こす力・好奇心

他者との対話や協働

遊びの主体的な調整


3つ目に注目してください。小学校以上では「学びの主体的な調整」と書かれているところが、幼児教育では「遊びの主体的な調整」になっています。




変わったこと③|養護を「基盤」に置き直す

先にお断りしておくと、この話は主に保育所保育指針と、幼保連携型認定こども園教育・保育要領に関わる話です。幼稚園教育要領には「養護」という章はありません。ただ、3つを近づけていく議論ですから、幼稚園の先生方にも知っておいていただくと、全体像がつかみやすくなります。

養護とは、保育所保育指針で、こどもの生命の保持と情緒の安定を図るために保育士等が行う援助や関わりとして示されてきた言葉です。抱き上げる、検温する、泣いている子のそばにいる。保育のいちばん土台にある働きを指しています。

8月版の原文です。


養護を基盤として乳幼児期全般を通して育ちと学びを支えていくことができるよう、その位置付けや記載内容の整理を図ることが重要

鍵は「基盤」という言葉です。今の保育所保育指針では、養護は総則の中の1つの項目として書かれています。それを、全体を支える土台の位置に置き直すということです。

建物でいえば基礎工事です。基礎の上に、教育という柱が立つ。「基盤」という言い方は、養護を軽くするのではなく、むしろ全部の下に敷き直すという意味に読めます。


養護と乳児保育の「重複」も整理する

原文には、もう1つはっきり書かれていることがあります。


現行の保育所保育指針の養護に関するねらい及び内容は、特に乳児保育に関わるねらい及び内容と重複する部分が多く

同じタオルが、脱衣所の棚にも押し入れにも別々にしまってある。どちらを見ればいいのか迷いますよね。指導計画を書くときに「これは養護のねらいだろうか、乳児保育のねらいだろうか」と手が止まった経験のある方もいるのではないでしょうか。その迷いを整理しようという話です。

どこにどう書き込まれるのかは、まだ決まっていません。原文も「整理を図ることが重要」という書き方にとどまっています。「養護がなくなる」という受け止めは正確ではありません。 ここは、はっきりお伝えしておきます。




変わったこと④|具体的な言葉が入った4つの論点

8月版で具体的な言葉が入った論点を、4つ手短にご紹介します。


画面(スクリーン)の使い方


利用が心身の健康や発達に長期的影響を及ぼす可能性が指摘されているなど、科学的・医学的知見等も踏まえて必要な留意点を示す

注意して読みたいのは、「使いましょう」とも「やめましょう」とも書いていないことです。書いてあるのは「必要な留意点を示す」です。

ハサミと同じだと思ってください。園からハサミを追い出すわけでもなく、何も言わずに渡すわけでもない。使い方と気をつけることをしっかり決めてから渡す。モニターやタブレットも、そういう道具として扱うということです。




障害のあるこどもへの支援

記載を充実させる方向が示されています。

関連して押さえておきたいのが「合理的配慮」です。合理的配慮とは、障害のある人から困りごとを取り除いてほしいと求められたときに、負担が重すぎない範囲で、やり方を変えたり調整したりすることです。令和6年4月からは、民間の事業者にも義務づけられています。すでに現場でやっていることに、言葉が追いついてきた。私はそう受け止めています。


外国につながるこどもへの関わり

原文には、「母語での声掛けや母文化の遊びを取り入れる」「日本語の力を育む視点」という言葉が入りました。

ここは順番が大事です。母語を消して日本語に置き換える、という意味ではありません。母語という土台の上に、日本語を積んでいく。土台を崩したら、その上には積めませんからね。


小学校との引き継ぎ|「対話のための資料」

幼児教育で育まれた資質・能力について、原文はこう書いています。


小学校関係者等と対話をするための資料を作成・活用する

「対話のための資料」という新しい名前が出てきました。

今も小学校には、幼稚園幼児指導要録や保育所児童保育要録といった書類が送られています。それとは別に、話し合うための材料を用意しましょう、という提案です。要録が「送り状」だとすれば、対話のための資料は「向かい合って一緒に見る1枚」。送って終わりではなく、話すためのものです。

ただし、様式も分量もまだ示されていません。「書類がまた増えるのか」という声が出るのも当然だと思います。ここは、これからの議論を見ていく必要があります。




いちばん大事なこと|これはまだ「案」です

8月版の表紙にも「案」と書かれています。その横に「会議後修正」という言葉がついています。つまり、会議を受けて直した途中の姿です。決まったものではありません。

この先は、審議会が「答申」という形で意見を示し、それを受けて国が「告示」という形で公に出します。告示とは、国が正式に知らせる文書のことで、要領や指針はこの告示として出され、法的な基準になります。その手順を踏んで、初めて「決まった」と言えます。

ですから、この記事でお伝えしたことも、すべて「今の案ではこう書かれています」という段階の話です。研修でお使いいただくときは、ここを必ず添えてください。




今、現場でできること3つ

どれも告示を待たずに、今日から試せます。



やってみること

1

こどもの遊びが深まったと感じた場面を、記録の言葉にしてみる。

どこがどう深まったのかを書くと見えてくる

2

自園の指導計画で、養護と教育がどう書き分けられているかを見直す。

重複があるなら、それは国も同じ課題を見ている

3

小学校との引き継ぎで何を話したいかを、先に1枚にまとめてみる




この先の追いかけ方

この回は、第17回「遊びが深まる」の追補として撮影したものです。第17回をまだご覧になっていない方は、そちらを先にご覧いただくと、今日の話がつながります。シリーズ全体を振り返るなら、第18回「総集編 150年を20分で」をどうぞ。

答申が出るまでは、今お伝えできるのはここまでです。この後も会議は拝見していきますので、変わったところはまたお伝えします。

答申が出て、いよいよ内容が固まってきましたら、セミナーとしてご案内する予定です。その際は、保育所保育指針の歴史と今、幼稚園教育要領の歴史と今の話もすべて踏まえたうえでお話ししたいと考えています。要領も指針も、これから改訂・改定されていきます。一緒に、改訂の内容を追いかけていきましょう。

※この記事は制度をわかりやすくお伝えするための解説です。正確な内容は、文部科学省・こども家庭庁の公表資料と、各要領・指針の原文をご確認ください。




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特定非営利活動法人 すずらんチャイルドケア

人財育成部 部長 太田 宏彰


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