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幼稚園教育要領の歴史と今【第11回】遊びは「学習」である|平成元年、環境を通して行う教育と5領域

1 日前
読了時間: 14分

更新日:2 時間前

まずは解説動画をご覧ください(約24分)


▲ 平成元年(1989年)、幼稚園教育要領は「環境を通して行う」ことを基本に据え、遊びを「重要な学習」と定義しました。6領域が5領域に変わった、このシリーズ最大の転換点をたどります。




このシリーズ最大の転換点

前回の第10回は、昭和39年(1964年)をたどりました。幼稚園教育要領が告示になり、手びきから基準へと性格が変わりました。そして6領域は変えないまま、小学校以降の教科との誤解を避けるために、その性格が明示されましたね。

今回は、平成元年(1989年)です。このシリーズの最大の転換点になります。

6領域が、5領域になります。音楽リズムと絵画製作がなくなり、「表現」が生まれます。社会は「人間関係」に。そして「環境」という領域が登場します。




平成元年、25年ぶりの「全部改正」

まず、告示の文面を読みます。


学校教育法施行規則第76条の規定に基づき、幼稚園教育要領(昭和39年文部省告示第69号)の全部を次のように改正し、平成2年4月1日から施行する。

平成元年 3月 15日、文部大臣 西岡武夫。文部省告示第23号です。

「全部を次のように改正し」と書かれていますよね。一部改正ではありません。昭和39年の告示第69号を、まるごと差し替えたわけです。昭和39年から平成元年まで、25年。そのあいだ、幼稚園教育要領は改訂されていません。

では、目次を見てください。

章

中身

第1章 総則

1 幼稚園教育の基本/2 幼稚園教育の目標/3 教育課程の編成

第2章 ねらい及び内容

健康/人間関係/環境/言葉/表現

第3章 指導計画作成上の留意事項


お気づきでしょうか。昭和39年版の第2章は「内容」でした。平成元年版は「ねらい及び内容」になっています。

第10回でお話ししたとおり、昭和39年に「望ましい経験」が「ねらい」になりました。そして平成元年、章のタイトルそのものが「ねらい及び内容」になったんです。




「環境を通して行う教育」が、要領の基本になった

では、第1章の冒頭、「幼稚園教育の基本」を読んでいきます。


幼稚園教育は、幼児期の特性を踏まえ環境を通して行うものであることを基本とする。このため、教師は幼児との信頼関係を十分に築き、幼児と共によりよい教育環境を創造するように努めるものとする。

「環境を通して行うものであることを基本とする」。

保育に携わる方なら、この一文はご存じだと思います。今の幼稚園教育要領でも、保育所保育指針でも、いちばん最初に置かれている考え方ですね。それが登場したのが、平成元年です。


倉橋惣三から72年

ここで、第6回を思い出していただきたいんです。

大正6年(1917年)、倉橋惣三が東京女子高等師範学校附属幼稚園の主事になりました。そして、遊戯室の正面にかけてあったフレーベルの肖像を職員室へ移し、うやうやしく扱われてきた20恩物を、子どもが積み木として自由に遊べるよう竹籠に入れた。そういうお話がありましたね。

倉橋は「誘導保育」という考え方を打ち立てました。そのとき、こうお伝えしました。大人がすることは、教え導くことではなく、自己充実のために刺激を与え、環境を構成することだ、と。

そして平成元年の条文には、「幼児と共によりよい教育環境を創造する」と書かれています。構成と、創造。ほとんど同じ向きの言葉ですね。

そのあいだには、第8回でお話しした昭和22年の学校教育法があります。


第七十七条 幼稚園は、幼児を保育し、適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする。

年

文書

言葉

大正6年(1917年)

倉橋惣三

環境を構成する(20恩物を竹籠に入れた)

昭和22年(1947年)

学校教育法 第七十七条

適当な環境を与えて

平成元年(1989年)

幼稚園教育要領

環境を通して行うものであることを基本とする

大正6年、一人の主事が籠に恩物を入れた。昭和22年、「適当な環境を与えて」が法律になった。そして平成元年、「環境を通して行う」が要領の基本になった。

72年かかって、思想が制度になったんですね。




遊びは「重要な学習」である

そして同じ「幼稚園教育の基本」の中に、私がこの回でいちばんお伝えしたい一文があります。


幼児の自発的な活動としての遊びは、心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習であることを考慮して、遊びを通しての指導を中心として第2章に示すねらいが総合的に達成されるようにすること。

もう一度言いますね。遊びは、重要な学習である。国がそう書いたんです。

これがどれだけの転換なのか。このシリーズを振り返らせてください。

年

回

できごと

明治10年

保育の細目25のうち19が恩物。時間割で、授業のように一斉に同じ活動をしていた

明治30年代

東基吉・中村五六・和田実らが恩物中心の保育を批判。その表れが砂場(決められた形も順序もないもの)

昭和23年

第8回

保育要領の「楽しい幼児の経験」12項目に、休息と自由遊びが入った

平成元年

第11回

遊びは「重要な学習」である、と定義された

明治10年、遊びはそこにありませんでした。あったのは課業です。それが平成元年、遊びが学習だと定義されました。


遊びは学習の準備ではない

少し、かみくだかせてください。遊びは学習の準備ではありません。遊びが、学習そのものなんです。

保護者の方から「遊んでばかりで、勉強はしないんですか」と聞かれることが、現場ではあると思います。そのときの答えが、ここにあります。


遊びは、心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習である

これは私の意見ではありません。平成元年から、国が要領に書いていることなんですね。




6領域から5領域へ|小学校の教科との一対一が消えた

では、領域の話に入ります。第2章の冒頭には、こう書かれています。


これらを幼児の発達の側面から、心身の健康に関する領域「健康」、人とのかかわりに関する領域「人間関係」、身近な環境とのかかわりに関する領域「環境」、言葉の獲得に関する領域「言葉」及び感性と表現に関する領域「表現」としてまとめ、示したものである。

健康、人間関係、環境、言葉、表現の5つです。昭和39年の6領域と並べてみます。

昭和39年 6領域

平成元年 5領域

健康

健康

社会

人間関係(人とのかかわり)/環境(社会の事象)

自然

環境

言語

言葉

音楽リズム・絵画製作

表現

健康は、そのまま健康です。社会は、人間関係と環境に分かれます。人とのかかわりは人間関係へ、社会の事象は環境へ。自然は環境に入ります。つまり環境は、旧「社会」の一部と旧「自然」が合わさったものなんですね。言語は言葉に。そして、音楽リズムと絵画製作が「表現」という1つになります。


一対一の対応が消えた

ここが、この改訂のいちばん大きな整理です。

第9回と第10回で繰り返しお話ししたことを、思い出してください。昭和31年の学会誌は、6領域が小学校の教科とほぼ一対一で対応していると指摘しました。国語は言語、社会は社会、理科は自然、音楽は音楽リズム、図画工作は絵画製作、体育は健康。算数がないだけでした。

では、平成元年の5領域はどうでしょうか。国語に対応する領域は、ありません。言葉です。理科に対応する領域も、ありません。環境です。音楽と図画工作は、表現の1つに溶けました。

一対一の対応は、消えたんですね。

第10回でお話ししたとおり、昭和39年には「小学校以降の教科との誤解を避けるため」という説明が加えられました。でも、それは説明でした。平成元年は、領域の名前そのものを変えたわけです。




「生活と遊離した特定の技能」への戒め

この改訂には、もう1つ注目すべき点があります。同じ言い方が、2つの領域に出てくるんです。

まず、領域「健康」の留意事項です。


幼児の生活と遊離した特定の運動に偏った指導を行うことのないようにすること

そして、領域「表現」の留意事項です。


幼児が自分の気持ちや考えを素朴に表現することを大切にし、生活と遊離した特定の技能を身に付けさせるための偏った指導を行うことのないようにすること

ここで用語のミニ解説をします。「遊離」とは、離れて浮いていることです。「生活と遊離した」というのは、子どもの毎日の暮らしから切り離された、という意味です。


なぜ、健康と表現の2つに書かれたのか

なぜ、この2つに書かれたのでしょうか。

旧「音楽リズム」と旧「絵画製作」が「表現」になりました。そして「健康」には、体育との対応がありました。つまり、技能を教える方向に流れやすい領域に、念を押しているわけですね。

鍵盤ハーモニカをそろって弾けるようにする。お手本と同じ絵を描かせる。組体操を仕上げる。そういう指導を、要領は戒めています。

念のため申し上げますが、音楽や絵や運動が悪いという話ではありません。条文は「生活と遊離した」「特定の」「偏った」という3つの限定をつけています。子どもの生活から生まれた表現なら、いいんです。問われているのは、大人の都合で持ち込まれた技能の練習です。

そして表現の条文の前半には、こう書かれています。「幼児が自分の気持ちや考えを素朴に表現することを大切にし」。

上手にではなく、素朴に。 いい言葉ですね。




「一人一人」と「観点から示したもの」

第1章の「幼稚園教育の基本」には、3つの事項が示されています。1つ目は、幼児の主体的な活動を促すこと。2つ目が、先ほどの遊びのことです。そして3つ目です。


幼児の発達は、心身の諸側面が相互に関連し合い多様な経過をたどって成し遂げられていくものであること、また幼児の生活経験がそれぞれ異なることなどを考慮して、幼児一人一人の特性に応じ発達の課題に即した指導を行うようにすること

「幼児一人一人の特性に応じ」。

第9回を思い出してください。昭和31年版の「望ましい経験」は、「伝染病その他の病気にかからないようにする」「設備や用具をたいせつに扱い、じょうずに使う」と書かれていました。これは、全員に同じことをさせる書き方です。そして研究者は、教師主導の保育がなされるのではないかと懸念していました。

平成元年は「一人一人」と書きました。「多様な経過をたどって」「生活経験がそれぞれ異なる」と、はっきり前提を置いたうえで、です。


各領域の冒頭に置かれた〔観点〕

そしてもう1つ。平成元年版の各領域には、冒頭に〔 〕でくくられた一文が置かれています。

領域

冒頭の一文

健康

健康な心と体を育て、自ら健康で安全な生活をつくり出す力を養う観点から

人間関係

自立心を育て、人とかかわる力を養う観点から

環境

身近な環境に積極的にかかわる力を育て、生活に取り入れていこうとする態度を養う観点から

「観点から示したものである」。5つの領域すべてに、この書き方がされています。

第10回で、領域は「教える単位」ではなく「見るための窓」です、とお話ししました。「観点から示したもの」。これはまさに、窓という書き方ですよね。昭和39年に「相互に密接な関係があり」という説明で示されたことが、平成元年には条文の書き方そのものに組み込まれたわけです。




「文字は小学校から」|105年間、引かれ続けた線

もう1つ、条文を読ませてください。領域「言葉」の留意事項です。


文字に関する系統的な指導は小学校から行われるものであるので、幼稚園においては直接取り上げて指導するのではなく、個々の幼児の文字に対する興味や関心、感覚が無理なく養われるようにすること

文字の系統的な指導は小学校から。これは、今も変わっていません。

そして、このシリーズを見てきた方には、聞き覚えのある構造だと思います。

年

回

言葉

明治17年

其害不尠(学齢未満の幼児を学校に入れ、学齢児童と同じ教育を受けさせるのは、害が少なくない)

明治44年

第5回

保育ノ本旨ヲ誤ルノ虞(画一に規定すると保育の本旨を誤るおそれがある。保育事項を法令から削除)

昭和22年

第8回

教諭は幼児の保育を掌る(小学校は「教育を掌る」。幼稚園だけ「保育」と書かれた)

平成元年

第11回

文字に関する系統的な指導は小学校から

明治17年(1884年)から平成元年まで、105年間、同じことを言い続けているわけです。

幼児期には幼児期の方法がある。小学校を前倒しにしてはいけない。 この線引きが、明治17年から平成元年まで、形を変えながら引かれ続けているんです。


平成2年、保育所保育指針も改定された

最後に、姉妹シリーズ「保育所保育指針の歴史と今」をご覧の方に、1点お伝えします。

この平成元年の改訂の翌年、平成2年に保育所保育指針も改定されます。幼稚園教育要領が平成2年 4月 1日から施行され、同じ年に保育所の側も指針を改定しました。2つの道は分かれていても、歩調は合わせていたわけです。




今日のまとめ


  1. 平成元年 3月 15日、文部省告示第23号。昭和39年の告示第69号の全部を改正し、平成2年 4月 1日から施行されました。25年ぶりの全面改訂です

  2. 第1章「幼稚園教育の基本」に、「環境を通して行うものであることを基本とする」と書かれました。倉橋惣三が恩物を竹籠に入れてから、72年後のことです

  3. 「遊びは、心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習である」。遊びが学習だと定義されました

  4. 6領域が5領域になりました。健康・人間関係・環境・言葉・表現。音楽リズムと絵画製作は表現の1つになり、小学校の教科との一対一の対応が消えました


ひとことで言うと、こうなります。

平成元年、幼稚園教育要領は「環境を通して行う」ことを基本に据え、遊びを「重要な学習」と定義した。倉橋惣三が恩物を竹籠に入れてから、72年後のことだった。




次回は平成10年、「生きる力」、そして園の外へ

次回の第12回は、平成10年の改訂です。「生きる力」という言葉が入ります。そしてこの改訂で、幼稚園が園の外へ踏み出します。預かり保育、子育て支援です。

第4回を思い出してください。明治15年、文部省は、父母がその養育を顧みる暇のない者のために、簡易幼稚園を奨励しました。働く親の子どもは、別の場所へ。それが二層構造の始まりでしたよね。

その116年後、幼稚園が自分でその役割を引き受け始めるんです。




収録を終えて

1989年に、幼稚園教育要領はこうした形になりました。そして翌1990年には、保育所保育指針も最初の改定を迎えています。

遊びが学習になった。今は2026年ですから、もう40年近く前から、こうした考え方が示されていたんですね。「環境を通して行うものであることを基本とする」。大人主導で教え込まない、ということが、この段階ですでに出てきているわけです。

私も常々、そこは思っています。どうしても大人の都合で保育をしてしまったり、子どもに先回りして教えてしまったり、ということがあります。私自身、この保育業界に入るまでは、まさにそうでした。大人だからこそ、子どもができないことをできるようにサポートしなければいけない。叱ることも、教えることも大事だと思っていました。

ただ、この業界に入らせていただいて、教師だから教えるのではなく、その体験を支えたり、環境をつくっていくことが大事な仕事なんだと思うようになりました。

1989年の時点でこうした方針は出ていたわけですが、裏を返せば、それから30年以上たった今も、まだそこができていないところも、中には見られるのではないかと思います。全部が全部ではありませんけれどもね。




「行事が近づくと、できばえを仕上げる練習ばかりになってしまう」園長・主任の先生へ

平成元年の要領は、「生活と遊離した特定の技能を身に付けさせるための偏った指導」を戒め、「素朴に表現することを大切に」と書きました。それから30年以上たった今も、発表会や運動会が近づくと、そろって弾く、そろって踊る、そろって描く練習が中心になってしまう、という声は少なくありません。

「遊びは重要な学習である」と分かっていても、それを職員どうしの共通の言葉にできていないと、保護者に見せるための仕上げに引っぱられてしまいます。

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受ける前

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行事が近づくと、できばえを仕上げる練習が中心になる

子どもの生活から生まれた表現を大切にする理由を、要領の言葉で職員や保護者に説明できる

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講義は職員それぞれの都合のよい時間に受けられる

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特定非営利活動法人 すずらんチャイルドケア

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